アルル ポートフォリオレビュー(Les Rencontres d’Arles Photofoli

アルルのポートフォリオレビューを受けてきたのでメモしておこうと思う。ちょうど一ヶ月前にレビューサンタフェを経験していたので、良くも悪くも緊張感なくレビューを受けることができた。サンタフェとの違いも含めて書いておきたい。


レビューサンタフェは事前審査があって参加者が100人に絞られるのに対して、アルルは参加費さえ払えば誰でもレビューを受けることができる。受付でそれとなく聞いたら、アルルの参加者は数百人だと言っていた。レビュアーは約100人。サンタフェは参加者100人でレビュアー44人だった。


約二ヶ月前からオンラインで申し込みがはじまる。自分でレビュアーとレビュー日時を決めて申し込む。早い者勝ち方式なのでスタート時に回線がパンクしたらしい。ちなみに僕は一ヶ月前にアルルに行くことが決まったので、その時点で人気の高いレビュアーはほとんどがsold out。選択の余地はあまりなく、結局5人のレビューを申し込んだ。サイトにはレビュアー情報があまり記載されていない。自分で名前と所属をキーワードにネット検索し、目的業種(ギャラリー、美術館、出版社、雑誌社、フェスティバルなど)と作品傾向に合った人を探すことになる。一方サンタフェはレビュアーの情報量が豊富で、プロフィールとあわせて、例えば「私はコマーシャルには興味ありません」とか「デジタル加工は嫌いです」とか「社会性のある写真が好き」などの好みまで書かれていて、とても選定しやすい。これはとても大事なことで、例えばドキュメンタリー作品をコマーシャル専門のレビュアーに見せてもお互い時間とお金がムダになるだけだ。いかに自分の作品とマッチする業種や人を前もって選ぶかというのがとても重要だと思う。アルルもレビュアー選定を抽選方式にするとか、レビュアーのプロフィールや情報を多く記載するなどの改善に期待したい。


レビュー会場は市街中心地にある講堂。体育館規模の広さで20〜30人が同時にレビューを受けられる。一応クローズドとされているが、横で話している内容も聞こえるし、会場内を歩き回ることもできた。テーブルをはさんだ対面方式だが、レビュアー側に回って話す人や、床に広げた写真を二人で立って見る光景もあり、全体的に動きがあって活気溢れる場だった。



サンタフェは完全にレビュー目的のイベントであったのに対して、アルルのレビューは、大フェスティバルの中の一つのイベント。この差も大きいと感じた。サンタフェはどこか仕事をしている感じに近かった。すでに出来上がっている作品を売り込む場であり、レビュアーも仕事に直結する作品を見つけに来ている感じだった(それが証拠に、参加者の多くが具体的な仕事に繋がる手応えがあったようだ)。そのせいか場の緊張感も高かったように思う。一方、アルルはどこか全体にオープンでリラックスした雰囲気。たくさんの参加者と話したが、製作途中の作品に対して意見をもらいに来たという人も多かった。レビュアーにもどこかリゾート気分があるように感じられて、サンドイッチを食べながらレビューする人もいたらしい(これもどうかと思うが…)。まあ、おかげで変な緊張なくレビューを受けることができたし、参加者同士もフレンドリーに情報交換できたように思う。レビュー会場横にはオープンスペースがあって、飲み物を片手に歓談したり、お互いに写真を見せあったりできたのがとても良かった。僕は自分のレビューがないときも会場に通って、長い時間を過ごした。


参加者の作品のレベルはどれも高い。サンタフェでは全体に作品にストイックさを感じたが、アルルは表現の幅も広く、またプレゼンの方法も多様だった。サンタフェで多く目にした「社会性」が浮き上がる作品はアルルではさほど多くなく、古典技法を使ったモノクロから抽象的なもの、ファインアート、遊び心のある加工作品までとても幅が広かった。プレゼン方法もサンタフェが16×20インチぐらいのサイズのポートフォリオが多かったのに対して、アルルでは長巻の巨大プリントを床に広げる人や、豆粒みたいな作品の人、iPadでプレゼンする人、レビュアーにヘッドホンをつけてもらって音声つきでプレゼンする人など、本当に自由で多様だった。こうした差が参加者の選抜の有無からくることなのか、アメリカと欧州の差なのかはわからないが、僕がはたから見ていて面白かったのはアルルの方だった。それと、あるレビュアーから、アメリカやロンドンに比べてパリの方が伝統的、古典的なモノクロはまだまだ根強いという話しを聞いた。



日本人の参加者は僕が把握できただけで14名(うち女性6名)。その半数が海外在住。ほとんどがアルルのレビュー初参加の人で、みな10人、20人のレビューを受けていた。レビュー後の成果を聞くと、具体的な仕事に結びついたという声はあまり聞けなかった。レビュアーはすべてが終わらない限りは確約めいたことは言わないだろうし、これを機会に今後何かに結びついていくことも十分にありうる。ちなみに岡山から参加していたSさんは、レビュアーが写真をとても気に入って、個人的に一枚買ってくれたという。こうした写真家冥利につきる話しもあった。


僕は5人のレビューを受けて、3人はあまり手応えなく、良い反応があったのは2人。1人はダイアンアーバスマニアのフォトフェスディレクターで、レビュー後に抱きついてキスされた。もう1人はポルトガルのフォトフェスのディレクターで、とても気に入ってくれて、うまくいけば来年展示できるかもしれない?という感じ。いずれにしても今後のフォローが大切だ。それと運も。レビュアーは少なくとも10人、多い人は30人もの作品を一気に見る。後日職場に戻った時点で強く印象に残っているのは数人ではないだろうか。そういう意味では、作品の質はもちろんのこと、作家自身のキャラクターも大切な要素かもしれない。余談だが、あるフランス人の参加者から面白い話しを聞いた。彼は、選定したレビュアーの後半のコマを選ぶようにしているという。後半の方が記憶にとどまる可能性が高いからだという。うーむ、そんなテクニックがあるのか…まあ、そんなことに左右されない作品を作ることが大事だとは思うけど…


アルルでは通訳をつけずにレビューに臨んだ。全く自信のない僕の英語でも何とかなったが、やはりもっと喋れたら作品をうまく解釈してくれただろうに、という残念感もある。ただ、英語が下手でも通訳を入れずにしっかりと相手の目を見て一生懸命に伝え、訴える姿勢が大切だとも感じた。レビュアーの中には英語が話せない人もいた。というか、僕と同程度の英語力で、お互いに言いたいことがスラスラ出てこず、しまいには目を見合わせてゲタゲタと笑ってしまった。たまたま横で見ていた別の参加者が入ってくれてなんとか無事に終えることができた。それと意外に使えたのが、あらかじめ用意していた想定問答集。自分の頭を整理するために作っていたものだが、同様の質問がきた時に、それを見せてうまく伝えることができた場面が何回かあった。こんなものまで作っているのかと少し笑われたけど。


もし写真集やzineがあるなら、レビュアーに見せたり渡したりした方がいいと思う。プリントとは違った見せ方ができるし、なによりモノとして持ち帰ってくれると第三者へも伝わりやすい。また、作品をそこそこ気に入ってもらえるとpdfファイルを送って欲しいと言われる。以前、写真家の渡部さとるさんに聞いたところ、前はCDを送ったり渡したりすることが多かったが、今はA4サイズのpdfで1ページに4〜6枚の写真を載せて数ページ、合わせてレジュメとステートメントを後日メールで送るのが標準で、先方も管理しやすいらしい。欧米の美術館などもA4のpdfファイルで書類管理することが多いという。あらかじめ作品をpdf化しておくと、レビュー後にお礼とともに複数人に送る場合に効率的だと思う。


いずれにしても、サンタフェとアルルのレビューを受けて、欧米の写真の傾向の違いも体感できたし、少しではあっても具体的な活動が生まれる気配もある。そして横のコミュニケーションが広がって、気のせいか自分の幅が広がったようにも思う。また、課題もよりクリアになった。写真の世界に限らず、日本人は自分を売り込むのが下手だとよく言われる。僕も得意ではない。確かに欧米や中国の写真家を見ていると、内側から湧き立つ自信が垣間見え、自分の作品のマーケティングを常に考えて行動しているように見える。いい作品さえ地道に作っていれば誰かがスポットを当ててくれるというのは、まずない。いい作品を作っている人はゴマンといる。やはり積極的に持ち込みをするなり、継続的に展示を繰り返すなり、こうしたレビューなどで直接的に働きかけていくこと、そして自分なりのネットワークを作り、自分の作品に応じたマーケティングを考えて行動していくことがどうしても必要なのだと実感した。